まずは地元を拠点に

宇佐見 采花さん
楢葉町 → いわき市(避難) → 東京 → 楢葉町
楢葉町出身で震災により高校1年でいわき市への避難を経験。大学では社会情報学を学び、リフォーム会社勤務を経て、現在は2社から業務委託を受けて仕事をおこなう個人事業主へと転身。完全リモートワークが可能となったこともあり、仕事はそのまま続ながら2021年11月に楢葉へUターン

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高校1年生でいわき市に避難するまでの16年間、楢葉で生まれ育った宇佐見さん。大学進学を機に福島を離れましたが、心のどこかでは生まれ育ったふるさとにいつかは戻りたいという想いを抱いていました。しかし、地元に戻るようなきっかけもなく、卒業後には東京のリフォーム会社に就職しました。就職先を決める際の脳裏には、避難中の一時帰宅の光景がありました。
いつでも帰れることが当たり前だった我が家。家は目の前に存在しているのに、帰ることも住むこともできない状況。そんな我が家を前に「家があって、そこで生活を送れることは当たり前じゃないんだ」と気づき、涙が溢れてきました。

住まいに対して人一倍強い想いを持っていた宇佐見さんは大学卒業後、リフォーム会社に就職しました。営業やマーケティングの担当になり、新たな仕事をどんどん吸収する一方で、満員電車での通勤や日々のデスクワークは、宇佐見さんの心身の疲労感をどんどん大きくさせていきました。「パソコンひとつあれば、どこでも仕事ができるような働き方をしたい」そう考えるようになり、リフォーム会社で携わってきた仕事の一部を業務委託として受け続けながら、会社を辞め個人事業主という働き方に転身しました。また、定額で登録された日本全国の家に住み放題というサブスクリプションサービスを運営する会社からも業務を受託。
2社からの業務委託という働き方によって、オフィスに通勤する日数も減っていきました。そこに押し寄せたコロナ禍。対面による打ち合わせが減り、ほぼ在宅で仕事ができるようになっていく中で、東京に居続ける理由が減っていきました。いつかは地元に戻れたらという想いを抱きながらも、明確に帰るきっかけが掴めなかったこともあり、仕事スタイルが大きく変化したことが地元へ帰るという想いをより一層強くさせました。そして2021年11月、仕事をそのまま続けながら実家へ戻る決断をしました。

約10年ぶりに東京から楢葉の実家へ戻って来た宇佐見さんは現在、両親と3人暮らし。久々の家族での生活に心強さを感じる一方で、震災前とは景色もひとも大きく変わったと感じています。家から見える星が少なくなったり、散歩の道中に拾うゴミの量が増えたりと思い描いていたふるさとの姿とのギャップも感じています。
生活面でも洋服など特別な買い物でいわきや仙台に出ることはありますが、身の回りの買い物で困ることは少ないそうです。また、パソコンを使った仕事がほとんどなので、みんなの交流館ならはCANvasやカフェなど、自宅以外でも仕事をしています。震災前とは大きく変わったふるさとですが、自分の肌に合った環境の中で仕事を続けることができる今のライフスタイルは気に入っていると言います。

「震災後や避難指示解除直後の大変な時期に楢葉を離れていたこともあり、何か地元に貢献できたらという想いがある」と語る宇佐見さん。現在の仕事では直接的に貢献することが難しいため、仕事以外で自分ができることを考えたいが、相談相手が少ないことが悩みだと語ります。宇佐見さんが確認できている同級生は町内には10名程度。仕事柄もあって家族以外と話す機会が少なく、自分のやりたいことを一緒に話し合いながら具現化していける仲間が欲しいそうです。

部活でバドミントンを続けてきた宇佐見さんは、楢葉に戻って来てからもバドミントンを楽しんでいます。「ならはスカイアリーナのような施設が、あの値段で利用できるのはすごく魅力的」と話し、休みの日には高校時代の友人や後輩を誘ってバドミントンをすることが楽しみになっています。また、県外から友人が訪ねて来ることもあり、浜通りの観光スポットを一緒にドライブしたりと休みには近隣のまちに赴いて時間を過ごすことも多いそうです。

パソコンひとつでどこでも仕事ができるので、今後の選択肢として複数拠点を持つということも考えています。現在の業務委託先のサービスを使い、楢葉をベースとしつつ、東北をはじめとした他地域に滞在しながら仕事をしていくのもひとつの方法だと捉えています。また、家をリノベーションしたり空き家をシェアハウスにしたりと、家に携わる仕事をしていることもあり、空き家の利活用こそが自分にできる地域への貢献方法なのではとも考えています。そうした考えを共有できる仲間を増やしていきたい。そのために、今は一緒に考えを深めていける仲間の輪を広げることを意識しています。集いの場やシンポジウムなどに顔を出し、この地域で活躍する方々と知り合う行動を起こし続けています。そうした中から、一緒に語り、悩み、考え続けられる仲間を見つけ、地域のためにできることを見つけていきたいと語ります。歩み始めた新生活の中で、今そのときを納得できる選択を積み重ねていきたいと考えています。

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